「美意識」とは宇宙である。
各人を取り巻く文化や環境、記憶、さらには人類、生命としての欲求といった様々な構成要素が絡み合うことにより、「美しい」というひとつの感情を描き出す。

例えば我々日本人の多くは、「苔」を愛でる対象として見ている。
しかし他国では苔とは愛でる対象ではなく、わざわざ鑑賞の対象として見る感覚が分からない人もいるようだ。
海外では自然とは征服するものと考えることが多く、苔とは排除する対象であり、自然と共存しようとする日本とは考え方が違うようだ。
一方で我々が苔に向ける美意識とは、ひとつの理由から生まれているものではない。
おそらくその構成要素の中には、苔を愛でる対象でない者にとっても美しいと思える要素があるのではないだろうか。

本作では美意識という内なる宇宙を表現する方法として、
プラネタリウムが天体の運動の魅力を分かりやすく伝えるために星空をドーム状のスクリーンに再現したように、
美意識の構成要素の一つをピックアップしコンセプチュアルに表現することで、
その「物」へ向けられる美意識というものを咀嚼し表現している。

モチーフは前述しているように「苔」である。
向けられる美意識として、花言葉でもある「母性愛」を選定した。
苔が地面いっぱいに?殖し包み込むような姿は母性愛を感じさせ、壮大で美しい。

母性愛の表現として、360度動画を制作し、母胎を再現した。
胎内音を再現した音に合わせて空間全体が変化し、その頭上で苔が増殖を繰り返す。
イマーシブ空間により、苔の持つ母性愛という美を五感たっぷりに感じることができるだろう。

苔そのものではなく、向けられる美意識を表現することにより、美しさへの気づきを与えることができるのではないだろうか。
表現技術の発達によりメディアが多様化することで、こうしたアプローチによる美の表現が実現できると考えている。

TouchDesigner/Ableton live