新しい映像技術は日進月歩の進化を遂げていますが,ハードウェア技術の進展に比べて,ソフトウェアやそれを用いた表現手法の進展は遅れています.そのため新しい映像装置が開発されても,その上で表示する映像コンテンツが極めて少なく,新技術の可能性をうまく生かしき れない問題が顕在化しています.
たとえば4K/8Kと呼ばれる高解像度の大規模映像においては,東京オリンピックに向けて急ピッチで普及が進められていますが,コンテンツの不足が顕著であり,その背後にはこれら大規模映像を扱える作家の不足,ノウハウをシェアするコミュニティの不在が問題視されています.
また,高解像度化に伴う大画面化は人間の認知の拡張,映像表現の新領域の開拓などの可能性を秘めていますが,それらの表現研究や認知科学的な側面からの研究は極めて少ないのが現状です.
また,VR/ARと呼ばれる領域はここ数年で急速に普及していますが,医療や娯楽といった応用先は十数年前のブームの際にすでに開拓されており,いまだ新しい可能性が十分に検討されているとは言いがたい状況にあると考えております.
それは,この分野が工学的側面からの研究に偏っていることが問題とされており,例えばアートやサイエンスといった領域での利活用の可能性を追求していく必要があると考えております. レーザーや照明器具を用いて映像を空間化する実践は娯楽分野において盛んに行われていますが,空間演出としての実践がほとんどであり,映像の進化という広い視点でその研究が欠如していると考えます.
このような背景から,Movie for Art, Design and Data(MADD.) をコンセプトとしたMADD. は生まれました。新しい映像表現にチャレンジする場を提供するとともに,アワードとそれに伴うイベントの実施を通して,映像作家,デザイナー,アーティスト,技術者の生きた生態系を育成していきます.
MADD.では,MADD. Awardへ応募いただいた作品,応募者プロフィール,作品のコンセプト,寄稿等を掲載した"MADD. book"を毎回制作し,MADD.の足跡として残していきたいと考えております.