TITLE

CHAOTIC WAVE “ミクロからマクロへ” ― 8K超高精細量子波動シミュレーション ―

  • TypeCG
  • CONCEPT
    私たちが暮らしの中で、見たり、聞いたり、触ったりして、感覚的に理解できるマクロな世界では、“もの”は粒子(又はその集まり)であり、その移動は古典力学の基礎方程式であるニュートンの運動方程式(ma = F)に従って、線の軌跡を描く(例えばボールの飛跡)。これを「粒子性」と呼ぶ。一方、分子や原子、電子といったミクロな世界では、私たちの暮らす世界とは異なり、“もの”は広がりをもった波である量子としてとらえられ、その振る舞いは量子力学の基礎方程式であるシュレディンガーの波動方程式を用いて記述される。これを「波動性」と呼ぶ。一般に、系のエネルギーが小さいミクロな世界からエネルギーが大きいマクロな世界へ変化するとき、これら二つの世界の全く異なる性質(波動性と粒子性)がどの様につながっているのかを理解することは、専門家でも容易なことではない。
     そこで、この難解な物理現象を一般の人にも直感的に理解してもらえる様に、スタジアム型をした開放系二次元空洞内の量子波動伝播のモデルを考えた。古典力学によると、スタジアム型空洞の内部では、粒子の運動は非常に複雑(カオス)であることが知られている。与えられた境界条件の下でシュレディンガーの波動方程式を数値計算により解き、解の波動関数から量子の存在確率を計算して、3Dカラーマップ表示を用いた8K動画を作成した。
    その結果、系がミクロ(系のサイズと波長が同程度な低エネルギー領域)からマクロ(系のサイズに比べて波長が著しく短い高エネルギー領域)へ連続的に変化するとき、空洞内では「波としての共鳴」から「粒子としての軌跡」へと徐々に遷り変わる様子が、シミュレーション(共鳴音付き)により明らかになった。特に高エネルギー状態では、カオスの特徴である微細な複雑構造が次々に現れ、それらは超高精細な8K映像技術によって初めて表現することが可能になった。目に見えない量子の振る舞い、特に量子力学から古典力学への遷移(即ち、波の世界から粒の世界へと遷り変わる様子)を8K超高精細映像を用いて可視化することにより、“もの”は粒であると同時に波であるという量子の不思議な性質を私たちは理解し易くなる。
  • 制作環境
    使用機材:スーパーコンピュータ・FORTRAN
    編集環境:パソコン・Linux
  • Organization
    福山市立大学
  • 応募者
    プロフィール
    • 石尾 広武

      福山市立大学都市経営学部教授。1990年京都大学工学部電気工学科卒。1995年京都大学大学院理学研究科で博士(理学)号取得。主な研究分野は、量子力学の基礎論、カオス理論、計算物理学、そしてヒューマン・コンピュータ・インタラクション(3D、VR、AR、4K/8K超高精細映像など)。スーパーコンピュータを用いた大規模な科学技術計算を得意とする。大阪教育大学講師の他、米国テネシー大学ノックスビル校・オークリッジ国立研究所・ハーバード大学、墺国ウィーン工科大学、瑞国リンショーピン大学、英国ブリストル大学、西国マドリード自治大学、名古屋大学・立命館大学などで研究に従事。日本物理学会会員、電子情報通信学会会員、米国物理学会終身会員。